第弐話「『羽』という名が刻まれた街で…」
カーテン越しの窓から太陽光が差し、その眩しさに目を覚ます。7年振りにこの街に来て
初めての一夜。今日から新たな生活の第1歩が始まる。
すぐにでも体を起こそうと思ったが、あまりの寒さに再び蒲団に潜り込む。朝は寒いのが予想されるから、ストーブのタイマーを起きる10分前にセットしておいた筈なのだが…。
腑に落ちずストーブの温度確かめてみる。部屋の現在気温10℃。
ええい、またしても帝都の感覚で…。
「人は、同じ過ちを繰り返す…、全く…(C・V古谷徹)」
まだ3日位冬休みがあるが、後々の事を考えてきちんと起きるとしよう。さてと、眠気覚ましと体を早急に暖める為に、Fのサントラを聞きながら必殺技でも叫ぶか。…ってCDをまだ引越しの箱から出していなかったな…。仕方ない、音楽無しで叫ぶとするか。
「ゲッタァァァビィィィィム!!(C・V神谷明+ゲッタービームの構え)」
「ゲッタァァァシャァァァァァイン!!シャインスパァァァァァク!!(C・V同上+シャインスパークの構え)」
「ストナァァァ・サァァァンシャァァァァァイン!!(C・V同上+ストナーサンシャインの構え)」
「うにゅ〜・・・祐一、朝から騒々しいよ…」
私の声があまりにも五月蝿かったのか、名雪が目を覚まして私の部屋に入って来た。
「朝の気合入れの発声だ。気にするな」
「もう、すっごく気になるよ〜」
「悪かった悪かった。次回以降は控えるようにするよ。それよりもこれから着替えを始めるから、悪いけど部屋から出てくれないかな?」
「分かったよ」
そう言って名雪は私の部屋を退出した。さてと着替え開始と行きますか。
「チェェェェンジゲッタァァァ1、スイッチオン!!(C・V神谷明+着替えの動作)」
「…祐一、いきなり前言撤回しないでよ〜」
ドア越しに名雪の声が聞こえてくる。どうやら私が着替え終わるのを待っていたらし
い。
「フ、あれはあくまで朝の発声を控えるという意味。今のは着替えの合図だ」
と反論した。予想通り「単なる言い訳だよ〜」と再反論されたので、次回以降この行為も控えるとしよう。
着替えが終わり、名雪と一緒に1階に降りる。台所では既に名雪の母親である秋子(あきこ)さんの手により、朝食の準備が整っていた。そしてテーブルの上には昨日と同じく、4人分の食器類が並べられていた・・・。
昨日名雪と再会した後、その足で居候先である水瀬家(みなせけ)へ向った。名雪の話だと居候記念の食事の準備が整えられているとの事で、胸を躍らせながら水瀬家宅へと足を進めた。
水瀬家の玄関に着き、名雪に先導され家の中へと入る。家の中に入った途端、香ばしい匂いが奥から漂ってきた。
秋子さんにこれから色々とお世話になると軽く挨拶をする。テーブルに腰を掛けようとすると、健康予防の為にとうがい、手洗いを勧められた。名雪に場所を聞き洗面所へ赴
く。
一連の動作を終え再び台所へと赴くと、既に料理の準備が整えられていた。赤飯に芋の子汁、そして2〜3品の惣菜。都会では到底味わえない、見事なまでの郷土料理の数々である。
早速料理に手を出そうと思ったが、ふとある違和感を感じた。何も料理が盛られていない食器類が一人分、こつ然と並べられていた。
その訳を秋子さんに聞こうとしたら名雪が変わりに答えてくれた。
「お母さんは待っているんだよ。帰って来る筈無い人を…」
秋子さんが待ち続けている人、名雪の話によるとその人は名雪の父であり、秋子さんの最愛の人、水瀬春菊(はるき)さんである。行方不明になりもう少しで10年になるということだ。
春菊さんは10年前の昭和天皇大葬の日、こつ然と姿をくらましたのだそうだ。祝日には必ず国旗を掲揚していた事から、近所でもその愛国心振りは有名であったという。明治の乃木大将のように、天皇の大葬に合わせ殉死したのではないかというのが、近所でのもっぱらの噂だったそうである。
だが、秋子さんは信じなかった。あの人が私と娘を置いて死ぬ筈は無い。乃木大将だって最愛の妻と共に殉死した位だ。きっと姿を現せない深い事情があるのだと…。
春菊さんが蒸発した次の日、秋子さんは警察に捜索依頼を頼んだ。それから暫くし、上
川のほとりで春菊さんの物と思しき遺書が見つかった。筆跡も間違い無く本人の物と照合し、春菊さんは自殺したのだと警察から公式発表がなされた。だが、死体が上がっていない、遺書も偽装に違いない。あの人はきっと何処かで生きている…。
それから秋子さんは待ち続けた。雨の日も、風の日も、何日も、何ヶ月も、そして何年も…。必ず生きていると、きっと帰って来ると…。何も盛られていない食器、それは春菊さんを待ち続けている何よりの証。あの人がもし帰ってき来た時、こうやって毎日のように帰りを待っていたのだという気持ちを伝えたい為。貴方はいつもご飯を粗末にしてはいけないと言っていた、だからご飯は盛っていないけど…。でも貴方の事を忘れた事は一度も無い。貴方へ対する想いは決して変わっていないと…。
朝食を食べ終え、リビングで腹休めをしながら新聞を広げる。自自合意で衆院比例区の定数が200から150に削減か…。やってくれました一郎党首。いい加減あの腐敗した地球連邦高官みたいな政治家共は、どうにかして欲しいと思っていた所だ。そういえば自憂党党首倉田一郎(くらたいちろう)氏は、この街出身だったな。残りの冬休みを利用し、一つ自宅を訪ねてみるか。
テレビを見終わろうとした頃、名雪が商店街に一緒に買い物に行かないかと誘って来た。
このままテレビも見ているのも退屈だし、何より私はこの街の事を何も覚えていない。
「任務了解、内容、物資補給の同行…(C・V緑川光)」
「う〜…、また私の知らない人の台詞を…。でも一緒に買い物に付き合ってくれるのはすごく嬉しいよ」
買い物一つで大袈裟な…、と思ったが、外に出た途端状況が一変する。コート越しに吹き付けて来る風を浴び、外に出る意欲が一気に下降してしまった。
「任務完了…(C・V緑川光)」
そう言い家の中に入ろうとすると、
「まだ2歩しか歩いていないよ〜」
と名雪に差し阻まれた。
「悪いが俺は寒冷地は地形適応がDな上に移動速度が制限されて、1ターン(1分)に2へックス(2歩)しか進めないんだ」
「…ようするに寒くて外に出たくないっていう事だね…」
「そういう事だ。まあ、今着ているコートより厚いコートがあれば別だけど…」
そう言うと名雪は家の中に入り、暫くして黒い宮澤賢治風のロングコートを持って来てくれた。どうやら春菊さんが以前着ていた物らしい。流石にそれは悪いと思ったが、秋子さんが家には着る人がいないから是非にと言っていたとの事で、結局羽織る事にした。
家を出て国道沿いを暫く歩くと商店街が見えてきた。
「私、このスーパーで買い物してくるから、祐一は外で待っててね。後で荷物持ちお願いね」
そう言い、名雪はスーパーの店内に入っていった。
外で待っていろと名雪は言ったが、この寒さの中で外で待機しているのは堪え難いの
で、商店街を少し歩いてみることにした。まあ、名雪が買い物を終える刻は、私のニュータイプ能力(アテにならない第六感)で感知すれば問題無いだろう。
スーパーを南下すると左手に薬屋、右手にコンビニが見えてくる。このコンビニは看板を見る限り24時間営業では無いようである。そこの辺りがいかにも小田舎のコンビニエンスストアという感じである。
南下を続けてくると色々な店が見えてくる。本屋に雑貨屋、ガソリンスタンドに寿司屋…。
そろそろ待ち合わせ場所に戻ろうとすると、今歩いてきた道の方から、
「うぐぅ〜、どいて〜」
とToHeartのマルチ似の声が聞こえて来た。急いで後ろを振り向くと、小柄で背中に羽が生えた少女がこちらに向って突撃して来る。
何故羽が生えているのだ?と一瞬思考を張り巡らしたが、今はそんな事を考えている暇は無い。とにかく回避しなければ。だが、なれない雪道で思ったように行動が取れず、見事その少女と正面衝突、背中に直撃を食らってしまった。
「駄目だ、機体の調整が完全じゃないのか!?(C・V古谷徹)」
そう言いながら背中をさすっていると、後ろから、
「うぐぅ〜、いたいよ〜」
と少女の嘆き声が聞こえて来た。どうやら顔から正面衝突した様子で鼻をさすっている。
「ひどいよ〜、どいてっていったのに〜」
「すまん、すまん。謝罪しよう。ニュータイプともあろう者が、この程度の攻撃、避けられぬとあっては末代までの恥だからな」
そう話し掛けた所で、自分が見知らぬ人にいつものノリで話し掛けているのに気付く。い、いかん。これでは怪しい人と勘違いされてしまう。
「あっ!とりあえず話はあとっ」
どう返答しようか迷っていたら、少女の方から声を掛けてきて、突然私の腕を引っ張り出した。
「お、おい、一体どうしたんだ!?」
「ボク、追われてるんだよ〜」
分けも分からず少女に引っ張られ、まだ慣れない雪道を半ば強制的に走らされる羽目になった…。
「うぐぅ…、ここまでくれば大じょうぶだね…」
「ところで何で追われているんだ?走りながら後ろの方を見てみたら、お前を追っている人、どう見ても温厚そうな普通の人だったぞ?」
「えっと…、それは…」
「これは私の直感だが、君が先程から大事そうに抱えている袋と何か因果関係があるような気がするのだが?(C・V池田秀一)」
ついシャア調の声で応答してしまったが、少女は苦笑しながら小声で、
「これはたいやきのふくろだよ…」
と答えた。
鯛焼きの袋、それに逃亡、この二つから導き出される答えは…、
「フフ、見えるぞ私には!さては鯛焼きを買ったのはいいが資金が足りずに逃亡を決行したのだな!!(C・V池田秀一)」
「うぐぅ〜、どうしてわかったの〜?」
「私は一応はニュータイプだからな(C・V池田秀一)。それにしてもこの極悪人が!今すぐ警察に出頭するんだな、万引きは一応犯罪だ。自首すれば罪も軽くなる事だろうし」
「うぐぅ〜、あとでちゃんとはらうつもりだったんだよ〜」
「フ、それならば若さ故の過ちという事で見逃してやろう(C・V池田秀一)」
う〜ん、我ながら随分と悪乗りをしてしまったものだ。口調が殆どシャアになってしまった。それにしてもこの少女、よく私の会話を何の疑問も持たずに聞き入れているな…。
そう思っていると、少女は突然袋に詰めていた鯛焼きをほう張り出した。
「たいやきはやきたてがイチバンだねっ」
「盗品をやすやすと食うな!前言撤回して警察に突き出すぞ!!」
「うぐぅ〜、だってたいやきはやきたてがイチバンおいしんだよ〜」
「上手くても食すな!!」
「うぐぅ〜、1つあげるから許してよ〜」
盗品など食えるものか…、と言いたい所だが見知らない道を分けも分からず走ったせいかやや空腹気味である。仕方が無いので素直に受け取ることにした。
「仕方ない、それで許してやろう…」
「うぐぅ〜、許してくれてどうもだよ〜。じゃあ、はいっ、たいやきっ」
見知らぬ少女と共に鯛焼きを食する。…そう言えばまだ名前を聞いていなかったな。そう思い、私は少女に名前を訊いてみた。
「そう言えばお前、名前何て言うんだ?」
「ボクはあゆ、月宮(つきみや)あゆだよっ!キミは?」
「私はクワトロだ!それ以上でも、それ以下でもない!!(C・V池田秀一)」
…と答えようと思ったが、流石にそう答えてはアブないマニア以外の何者でもないので普通に答えることにした。
「俺は相沢祐一だ、今更ながらよろしくな」
「…祐一…君…、何だろう…ずっと前に会ったことがあるような気がする…」
そう言い、あゆという少女は大きく目を見開いて私を見つめた。
「俺もそんな気がする…だけど、いつ何処で会ったのか、そこまでは覚えていない…」
「そっか…」
残念そうに頷くあゆ。私自身何故思い出せないのか困惑する。明らかに何処かで出会った事があるような気がする。だが、同時にそれを思い出すのを心が拒んでいるような気がする。
「じゃあ、今日はこの辺でさよならだね」
「そうだな…」
何故だろう、さよならという言葉に戸惑いを感じる。このあゆという少女の口からはその言葉は聞きたくない。そんな想いが心の中を駆け巡る。
「また会えるといいねっ」
そう言われ、私は不思議な安堵感を感じる。
(そうだよな、ここで永遠の別れになるわけじゃないものな…。何で俺はこうまでさよならという言葉に戸惑いを感じるのだろう…)
「ああ…」
考えてもしょうがない、とりあえず今は普通に別れよう。そう考えながら私は頷いた。
「じゃあね、バイバイ」
そう言いあゆは、手を振りながら私の元から過ぎ去る。羽の飾り、そしてあの天真爛漫な笑顔が、いつまでも、いつまでも目に焼き付いていた…。
あゆと別れた後、私は急いで名雪との待ち合わせ場所に戻る。そこには既に、すねた顔の名雪が待ち構えていた。
「うそつき…」
名雪に散々酷いよ〜と怒られながら帰路に就く。家に着き、夕食までまだ時間があるという事なので、暇潰しにテレビ東京系のアニメでも見ようとテレビの電源を入れる。そこで私は重大な異変に気が付いた。
無い、無い!どのチャンネルを付けてみてもテレビ東京系が見つからないのである。名雪にその辺りを聞いてみた所、どうやらこの県にはテレビ東京系のテレビ局は存在しないらしい。
カレカノ…、セイバーJtoX…、ガサラキ…、様々なテレビ東京系のアニメの名前が、走馬灯のように駆け巡る。よくアニメージュなどで地方の辛さを耳にするが、その辛さを今正に痛烈に実感した。
(春からは待ちに待ったToHeartが始まるっていうのに…)
仕方が無いのでローカルのニュースを聞きながら時間を潰す。
夕食を食べ終わらせ、風呂に入浴し終わると、私は早めに床に就いた。
(そう言えばこの街の頭文字も「羽」だったな。もしかしたらあゆの羽付きのリュック
は、町興しのグッズか何かなんだろうな…)
そんな事を考えながら深い夢の中に入り込んで行った…。
夢の情景…、これはいつ頃の情景だろう…、目の前にいるのは幼い日のいとこの名雪
…。
「祐一、買い物つきあって」
「うんいいよっ」
いとこの名雪に買い物にさそわれ、僕は名雪といっしょに家を出た。風がとっても冷たい…。
「さむい…買い物、や〜めた」
「もうまだ外に出たばかりだよ〜」
「さむい、さむいよ〜、こんなさむい日に外に出ろなんて強制労働だ〜、シベリア抑留だ〜、極東軍事裁判でうったえてやる〜」
「小学生のいうセリフじゃないよ〜」
そんなことをいわれしぶしぶ買い物につき合う。
「じゃあ祐一はここで待ってて」
名雪にこれから買い物をするスーパーの前で待ってろと言われた。
(待っていろたって僕はそういう性格じゃないんだけどな〜。そうだっ、名雪には悪いけど向いの酒店でカードダスでも買っていよ〜とっ)
そう思って僕は道路をわたって向いの酒店に行った。
(この町でカードダスが置いてあるのはここだけなんだよな〜ホントッ、不便な町だよな〜。あっ、ラッキー、キラだ!!」
無我夢中でカードダスを買っていたら、だれかに服を引っ張られた。
「…う、ぐっ…えぐ…えぐぅ…」
後ろを向くと、自分と同い年くらいの女の子が泣いていた。
「な、おい、どうして泣いているんだっ?あっ、ひょっとしてこのキラがほしかったのか。でもいくら泣いたってやるもんか、このキラは僕のもんだぞ〜」
「うぐぅ…違う…」
「そうか、それならどうして泣いてるんだ?」
「うぐぅ…、お母さん、お母さん…」
「お母さん、もしかしたらお母さんとはぐれたのか…」
そう聞いたけどその女の子は泣いているばかりで、それ以上は何も答えてくれなかった。
(こまったな〜、これじゃあまるで僕がいじめているみたいじゃないか〜)
そんなことを考えていたら、くぅ〜とおなかの鳴る音がした。
「ひょっとしておなかが空いているのか?」
気まずい雰囲気を変える絶好のチャンスだと思って、僕は女の子におなかが空いているか聞いてみた。そしてら女の子は首を縦にふった。
「分かった、じゃあ何が食べたい?この町に売っているのなら何でも買ってきてやるぞ」
「…たいやき…」
「たいやき、たいやきが食べたいんだな?ようし待ってろ、今買ってきてやるからっ」
そう言って僕は近くのお店にたいやきを買いに行った。
「はあ、はあ、走って買いにいっちゃったから疲れた〜。こういう時はホイミ(もちろん気分だけ)とっ。はいっ、たいやき」
そう言って僕は女の子の手元にたいやきを出した。でも女の子はそれを口にしなかった。
「どうして食べようとしないの?たいやきはやきたてが一番おいしんだぞ」
「…お母さんが、知らない人から物をもらっちゃダメだって言ってたから…」
あっ、そう言えばまだ自己紹介をしてなかったな。
「言い忘れていたけど僕は相沢祐一、君はなんていう名前なの?」
「あゆ、月宮あゆ…」
「あゆちゃんか、なんだかお魚みたいな名前だね」
「……」
場に少しの間冷たい風が流れる。
「あっ、ゴメン。それよりこれでもう知らない人同志じゃないぞ!。さ、遠慮しないでたいやきを食べてみて」
そう言い終わるとあゆはようやくたいやきを口にした。
「どう、おいしい?」
「しょぱい…」
「それはあゆちゃんの涙の味だよ」
「でも、おいしい」
おいしいと言われて人安心。それにしてもおいしいなら自分の分も買ってくるんだったな〜。でも、残りのお金はカードダス使いたかったし、ま、いいか。
「半分あげる…」
じっとあゆを見ていたらたいやきをあげると言われた。
「いいよ、あゆちゃんのために買ってきたたいやきだし」
「でもさっきから食べたそうにボクのことをみていたよ…」
「はは…、図星、その通り。まあ、あゆちゃんがくれるっていうんなら素直にもらうよ」
そう言ってあゆが口にしていたたいやきをもらった。そのたいやきはたしかにおいしかった。
「ごちそうさまっ、たいやきも食べ終わったし、僕そろそろ行くから」
そう言ってあゆと別れようとすると、また服を引っ張ってきた。
「何だ、まだ何か用があるの?」
「また、たいやき食べたい…」
「そんなに気に入ったの?じゃあまたいっしょに食べよっか」
「うん…」
「じゃあ、明日の同じ時間、駅のベンチで待ち合わせ」
そう言うとあゆは指を出してきて、「やくそく」と言ってきた。
「別に指切りなんかしなくたってちゃんと来るけど、あゆちゃんが指切りしたいんなら
…」
そう言い僕も指を出して指切りをした。
「ばいばい」
手をふりながらそう言って、あゆは僕の前から姿を消した。自分もその場所から立ち去ろうとしたら、さっきより強い勢いでだれかに服を引っ張られた。
「何だあゆちゃん、まだなにか…」
そこにいたのはあゆではなく、今にも泣き出しそうな顔の名雪だった。
(そう言えば名雪にスーパーの前で待っていろって言われてたな〜…)
気まずい雰囲気の中、名雪が一言なみだ声で、
「うそつき…」
と僕に言ってきた…。
…第弐話完
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